魂をゆさぶる「声」 印刷
作者: Kobinata Hidetoshi   

 2011年1月21日(金)、韓国文化院ハマダンホールにて、琵琶語り、新内、パンソリの演奏が行われた。韓国の伝統的語り物と日本の「声」による日韓音楽文化交流の絶好のプログラムだった。パンソリは、18世紀頃に民衆の語り物として盛んに演じられるようになったとされる語り物。1人の演者が、太鼓(プク)の伴奏を伴い、登場人物の台詞(アニリ)、歌(チャン)、ジェスチャー(ノルムセ)で構成する舞台である。現在5演目が伝承されており、当日もその中でも有名な親孝行物語『沈淸歌(シムチョンガ)』の数場面が語られた。

 演者の金福実は、迫力ある声と身振りで聴衆を十分引きつけた。経歴を見ると、日本でもパンソリを教えているようであるので、これを機会にパンソリに興味を持つ人が増えるとよいと思う。日本の芸能を考える上でも、たいへん興味深い発声と演技である。聴衆には多くの韓国の方もいたため、客席からも的確な間の手が入り舞台は白熱した。ネイティブの方々のパンソリの楽しみ方と、歌舞伎の見方に類似があるのもおもしろい。

 日本でも、パンソリの公演は多く行われるようになったが、筆者が経験したものの多くは語りの対訳を舞台に示し、聴衆の理解を深める工夫があった。今回の公演ではこうした工夫がなく、聴衆の中の日本人からは、この点についての不満の声もいくつか聞かれた。口承文学としての性格が強い演目であるからこそ、言葉の意味を伝える努力があれば、いっそう楽しめたであろう。主催者のこれからの企画に期待したいところである。

 複数の文化背景を持つ演目を一つの舞台で構成する場合、どのように接点見出すのかは難しいことだが、今回は日韓の「声」「語り」を軸にしたものとなり、興味深いものとなった。ただ、これらの演者が、真の意味での競演をし、同一曲を演じることがあってもよかったと思う。言うは易く行うは難し、ではあるが。